「・・・んー・・・んあっ! もーう!!」

乗らない。乗れない。
別に受験勉強が嫌って訳じゃないのに。
お仕事だって、勉強だって、集中すればいつもはスイッとカラダが受け入れてくれる。
なのに、今日は・・・何故かもやもや。

なんなんだろう? この不安定な気持ち・・・


「よし、いこ。」





『ひょんなことからおんぷちゃんと一日デート・冬の海編。』









赤い電車は、曇り空の下を軽快に駈けてゆく。
横須賀中央駅を過ぎると、左手に真っ青な海と、ぽっかり浮かぶ猿島が見えるハズ・・・

「・・・だったんだけどな。」

曇っているから見えない。のではなく
ベイエリアに林立する高層マンション郡が、堆いフェンスを作成していた。

「景色を独り占めされてるみたい・・・なんだか 嫌だな。」

その「壁」の間から時折見える海は、
まるで曇り空を鏡に写すように 蒼く・・・

京急久里浜駅を出ると、列車は単線区間へ
住宅地も減り、のどかな雰囲気へと変わってゆく。



三崎口駅到着。
東京の品川から出て途中分岐している、京浜急行・久里浜線の終着点。
ちなみに本線の終点は、ペリー来航で知られる浦賀駅だったりする。

駅から徒歩0分の位置に畑があったりする景色とは裏腹に
駅前のバスターミナルから頻発している路線バスが
否応無しに「首都通勤圏内の駅」という事を思い出させてしまう。

乗り込んだバスは、畑風景や小さな街中を潜り抜け
まぐろ漁船のひしめく三崎港を見ながら、城ヶ島へ掛かる橋へと昇ってゆく。

「あ・・・雨。」

バスのフロントガラスに幾つもの水滴。
大きなワイパーが、それを忙しなく拭ってゆく。

「昨日、今日は大雨だけれど
 明日は晴れて暖かくなるって天気予報で言っていたのに・・・」

アテにならないものだ。雨具類など一切持ってきていない。
でもま、なんとかなるでしょ・・・



終点の城ヶ島へ着く頃には、雨は小降りになり、やがて止んだ。
なんとかなった。

バスを降り灯台へと向かう道を登って行く。
休日だと言うのに、土産物屋街の呼び込みに威勢が無い。冬場だからだろうか?
一昔前に流行ったよな、ネズミの玩具だけが
店先でクルクル元気良く回っていた。シュール。

さらに階段を昇った高台に、城ヶ島灯台は聳える。

「白い灯台・・・海、そして遠くに見える島・・・
 うーん! なんかもやもや晴れてきたぞーっ!!」

あの時、頭に浮かんできたキーワードがそれだった。
あとは時刻表も何も見ず、ただ自分の「本能」だけに頼ってここ城ヶ島まで・・・
つくづく自分は旅好きなんだなぁ・・・と思うわけで。



灯台を下り、岩場へと歩いてゆく。
波打ち際で糸を垂れる人が、ひとり、ふたり・・・いっぱいだ。
4時を過ぎ、暗くなり始めているのに、その沢山の釣り人達は一向に引揚げようとしない。

「これからが釣れる時間帯なのかな・・・ん?」

釣り人・・・と言うよりは、それをただ真似てるだけの
見た目「なんちゃって釣り人」な、小さな男の子が目に止まった。



後ろからそーっと近付き、傍に置いてあるバケツの中を覗いてみる。

「なにみてんだよ!」
「え、あ・・・ごめんなさい。」

存在に気付き、振り向いてわたしを睨み付ける少年。
テヘ♪調の笑顔をしてみたけれど、やっぱり通用しなかった・・・

少年はムスッとした顔で、また釣り糸の先へと視線を戻す。
わたしもつられて、浮かぶウキを眺める。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・なんか用かよ」
「うーん、用ってワケじゃないけれど・・・
 ひとりより、誰かが居た方が・・・退屈しなくて済むじゃない? お互いに」
「ヘンなやつー。」

それから暫く、ふたりとも黙ったまま、暗くなってゆく波間を見続けた。
そのうち周りの釣り人達も、ひとり、またひとりと帰ってゆく。

雲の所為で暗いのか? それとも日が沈みかけているから暗いのか?
夕暮れの曇った空は、何故か余計 不安にさせられる。



「ねぇ、もうそろそろ帰ったほうが良いんじゃない? 暗くなってきたし」
「やーだね。大物釣るまで帰らない!」
「なんでー?」
「ばーちゃんに認めてもらう為にっ!」

・・・少年のおばあさんは、この三崎で魚売りの行商をしていて
毎朝、沢山の魚を木箱に積んで、自転車で走り回っているそうだ。

両親ともに都会へ通勤している為、おばあちゃん子で育った少年は
よちよち歩きの頃から、その姿をずっと見ていて
自分もおばあちゃんを手伝って、いつか行商になりたい・・・
と、思うようになった・・・でも

「認めてくれないんだ。
 魚の良し悪しも判らないようなおまえには、まだ早すぎる。って」
「あ、それで大物釣って
 おばあちゃんに行商のお手伝いを許して貰おうと・・・」
「そゆこと。」

おばあちゃんの跡継ぎ・・・かぁ


・・・わたしが有名になって ママを馬鹿にした人を、絶対見返してやる!・・・

初めてオーディションを受けた会場で そう心に決め、
芸能界へ入った あの時のわたしを思い出し・・・
ちょっと嬉しくなってみたり。

「ねぇ、力んじゃダメよ。」
「え?」
「・・・釣り竿も、糸も・・・釣ってる人の体の一部なんだよ。
 だから、持つ竿に力が入りすぎちゃうと、お魚さん達に悟られてしまうの。
 キミたちを釣ろうとしてるゾー って。」

それは何年前になるだろうか? 山中湖へキャンプに行った時
どれみちゃんのお父さんから教わった言葉。

「へぇー、そうなのかぁー・・・よぉーし!」


少年は目を閉じ、指先の感覚だけに集中した。
しかし波間に漂うウキは、相変わらずプカプカと浮かんだまま・・・

やがて、そのウキも見えなくなる位暗くなり
いよいよダメかと思った、その時

「ウキが沈んだッ!!」

と、わたしが言うより先に
少年の腕は獲物を感じ取り、動き出していた。

「やったーっ!!」
「よっしゃあ!クロダイだーっ!!」

岩場に釣り上げられた魚は、ビチビチと勢い良く跳ね回る。
少年はそれを愛しそうに抱きかかえ、そっとバケツへ移す。

・・・・・・



「もう暗いから、気をつけて帰るのよ。」

家まで送ってあげようかと言ったら、バカにすんなと怒られた。
三崎口駅へ向かうバス停の前で、少年とお別れ。

「うん・・・あとさ・・・ありがとう、おねえちゃん。」
「えっ、わたし・・・別に何もしてないけど?」

・・・なんて、最後にちょっとイジワル言ってみたり・・・

「おっ、男が礼を言ってるんだ。素直に受けろぃ!! じゃーね、ばいばい」

照れ臭そうにササッと手を振り、バケツを担いで走ってゆく少年。


「わたしこそ、ありがとう! バイバーイ!!」



そうだ、お土産どーしようか・・・ お!?




・・・・・・



「おんぷ・・・ビールのつまみに美味しいからって
 いくらなんでも スルメ50枚 は買い過ぎだと思うんだ。パパ。」
「だって50枚でないと売ってくれなかったんだもん。」






さて、受験勉強頑張るとしましょうかね・・・テヘッ♪




お わ り。